さて、それでは、本格的に文法を説明していきましょう。
第一回目は動詞についてです。
これがわからないと品詞分解の一歩目でつまずいてしまいますから、まずは動詞の活用の理解が必要ですね。
というわけで、動詞の活用についてです。
古文と現代文では、動詞が「違う」
まず、意外と知られていないのが、古文と現代語の動詞が「違う」ということです。この時点で、大きな間違いをはじめてしまいます。
古文の場合、現代語を古文に直すことはほとんどありません。古文を現代語に直していく作業がほとんどすべてですね。
でも、古文と現代語では、「違う」ので、ここで気が付かない、なんてことが起こります。
それでは、現代語の動詞をあげてみましょう。
書く
読む
食べる
遊ぶ
投げる
落ちる
言う
過ぎる
なんていうところでいかがでしょうか。
これらの中には、
現代語と古語が同じもの
現代語と古語が異なるもの
が存在しています。
「る」で終わるか「る」で終わらないか
正解は
同じもの:書く・読む・遊ぶ・言う
異なるもの:食べる・投げる・落ちる・過ぎる
です。
こうやって並べると、はっきりとわかりますよね。
同じもの:「最後が「る」でない」書く・読む・遊ぶ・言う
異なるもの:「最後が「る」で終わる」食べる・投げる・落ちる・過ぎる
ですね。
つまり、
現代語で「~る」で終わる動詞は、古文では形が違うということになります。
「る」をとって、ひとつ上を「u」音に
では、「~る」で終わる動詞は、古文ではどうなるかというと、
「る」をとって、ひとつ上を「u」音に変える
ということになります。
先ほどの例で、考えてみましょう。
「食べる」の「る」をとりますから、「食べ」ですね。ひとつ上の音、つまり「べ」をu音に変えますから、古語では「食ぶ」になります。
理解できましたか?
では練習です。
投げる・落ちる・過ぎる
について、やてみてください。
では、正解です。
投げる→投ぐ
落ちる→落つ
過ぎる→過ぐ
ですね。
理解できましたか?
実際には、古文で書かれているものの意味を現代語で考えるわけですから、文法の問題でもない限り、作業は逆になります。
文法題=品詞分解の時:現代語で動詞を探して、「る」で終わる動詞なら、古語で形が違うことを意識する。「る」をとって古語を考える。
読解問題:ぱっとみてわからなかったら、「これは現代語と古語が違うんだ」と考え、「る」をつけて、現代語をイメージする。
ということです。
たとえば、次の例文を考えてみましょう。
人おる。
という例文があったとします。「折る」とか、「あいつ、ここにおる」みたいな意味で通るならそれはそれでいいですが、(一応正確に書くと、「ここにいる」という「おる」は古文では「をり」ですから、本当は違いますよ)通らないとします。
そういう時には、
「あ、古文と現代文は違うんだな」と思います。
そしたら、「る」をつけて、現代語をイメージする。
ですね。
「人おるる。」
なんとなく、イメージできませんか?そうです。これは
降りる。
ですね。
もうひとつ練習しましょう。
大臣あく。
いかがでしょうか。「空く」とか「開く」ではないと考えます。意味が通じませんものね。
さあ、何ですか?
わからないから「る」をつけてみます。
大臣あくる。
になりました。
さあ、何ですか?
二つの可能性があります。
ひとつは「飽きる」が「飽く」
もうひとつは「開ける」で「あく」
ですね。正確なことを書くと、古文では、「飽く」は四段活用ではあるのですが、それでも、「あく」では僕たちは気が付きませんから、まず「る」をつける作業が有効であるのがわかります。
活用の種類
この二つがたくさんの動詞のほとんどの活用です。
これ以外の活用は、動詞が決まっているので、まずその動詞を覚える必要があります。
逆にいえば、覚えた動詞でなければ、この二つの活用になります。
現代語と古語が同じ:「る」で終わらない:四段活用 aず
現代語と古語が違う:「る」で終わる :二段活用 iず・eず
ということです。
厳密にいうと
二段活用はiず・eずにわかれます。
iず→上二段活用
eず→下二段活用
のふたつですから、実際は3つ。
動詞のほとんどすべては四段活用・上二段活用・下二段活用の3つに分類されます。
そして、上二段・下二段については、現代語と終止形が違い、「る」をとる(あるいは「る」をつける)
ということが大きなポイントです。
ちなみに、ですが、こんな風に変えたのはだれかというと、鎌倉武士です。あいつらは、学がないので、言葉を変えるのが好きですね。現代でも若者が言葉をつくりだすのといっしょです。
鎌倉武士が、二段動詞の連体形を、終止形のかわりに使うのをはやらせて、(食ぶ。というところを「食ぶる」というんですね)いつの間にか、現代の「る」のつく形になったわけです。
細かい注意点
では、少し細かいポイントにうつっていきましょう。
「る」で終わる四段活用
さきほど、「る」で終わるかどうか、と書きましたが、実際にはこれだけでまとめることはできません。
去る
帰る
やる
などは、四段活用です。つまり、古語と現代語が同じ、ということですね。
活用の行=かわっていくところ、がラ行だと、uにしたときに「る」になってしまうのです。
したがって、
「る」で終わるかどうか
に加えて
「ず」をつけたときに、iず・eず→二段
「ず」をつけたときに、aず→四段
というダブルチェックが必要です。
「ダブルチェックなんて面倒。「ず」つけるだけでいいじゃん」
気持ちはわかります。だから、教科書や参考書でもこの項目は省かれます。 だから、「る」で終わるかどうかでチェックの話が省略されてしまうんですね。
「ア行」「ヤ行」「ワ行」
さて、次に注意するのは活用の行=変わっていくところの行の話です。
まず、覚えてしまいましょう。
ア行活用は「得る」→「得」だけ。
5回ぐらい、ぶつぶつと声に出してくださいね。ア行活用は得だけですよ。
そうなると、次のものはどうなるでしょうか?
見える・消える・越える・おぼえる
まず、「る」をとりますよ。ひとつ上をu‥
見える→見う、なんてしたくなりますよね。
でも、
ア行活用は得だけ
ですよ。
というわけで、五十音図を思い出してみます。
アイウエオ
カキクケコ
サシスセソ
タチツテト
ナニヌネノ
ハヒフヘホ
マミムメモ
ヤユヨ
ラリルレロ
ワヲン
なんて作った人いません?どこが50音ですか?46音ですよ。
だいたいヤ行とワ行が活用していません。
正解は、
アイウエオ
カキクケコ
サシスセソ
タチツテト
ナニヌネノ
ハヒフヘホ
マミムメモ
ヤイユエヨ やいゆえよ
ラリルレロ
ワヰウヱヲ わゐうゑを
です。というわけで、かぶりは3音で、47音が正解です。イロハ47文字、ですね。
ちなみに「ん」は古文では表記が確立されていないので、書き表すことができませんでした。音はあるけど、書けない、ということですね。マニアックな話になると、もともと日本語にもっと音があったんです。カキクケコはくわくいくうくえくおというような音もあり、かき分けていたのです。でも、おそらく、文字が入ってきたことによって、単純化されてしまったんでしょうね。
もどります。
見える・越える・消える・おぼえる
は、ア行ではなく、ヤ行になります。
したがって、
見える→「る」をとって「見え」、uに変えて「見ゆ」ですね。
越えるは?
越える→越ゆ
消える→消ゆ
おぼえる→おぼゆ
になります。
もうひとつはワ行です。
たとえば、植える・飢える、などはどうなるかというと、
植える→植う
飢える→飢う
「えっ。ア行じゃん」
いえ。ア行活用は得のみ、ですよ。
間違っているのは、「植える・飢える」のほうですね。
つまり、活用するときに
植え・ず、植え・て、と活用せず
植ゑ・ず、植ゑ・て、と活用するんですね。
ハ行ってなんで「わいうえお」って読むの?
次に「言う」が古文では「言ふ」となる話です。
「ず」をつけると「言はず」ですが、読むときに「言わず」と読まされますよね?
これは、もともとの読みが違ったからなんです。
室町時代のなぞなぞ本に次のような問題がありました。
「ははには二度あひたれど、ちちには一度もあはず」
答えもついていて、答えは
「くちびる」です。
この問題、江戸時代にはわけがわからなくなっていたようで、この本の解説本が江戸時代に出るのですが、答えの説明ができないんです。
「ははは母。ちちは父と乳をかけている。乳を吸うときくちびるはあうけど、父にはあわない」とかそんな感じだったと思います。(はっきり覚えてなくてすいません)「変じたる体」だなんて書いてあったのは覚えてます。
この正しい答えは日葡辞書、というものの研究がすすんだときです。ポルトガルの宣教師が日本語の辞書を作っていて、だからポルトガル人が日本語をポルトガル語にするための辞書なんですが、そこには、
hahaではなく、fafaとつづられているんです。
つまり、ある時期まで、ぼくらは「はひふへほ」を英語のようにくちびるをかんで「ファフィフフェフォ」と発音していたようなのです。
だから、「はは」には二度くちびるがあい、「ちち」にはあわないんですね。
これがいつの間にか、唇をつけずに発音する。その時、faは「は」ではなく、「わ」になっていった、ということなんです。したがって、「ハ行」が現代では発音にあわせて「ワ行」になったわけですね。
現代語で二文字の「る」動詞は‥
次に現代語二文字の「~る」の動詞がどうなるか考えてみましょう。
たとえば、「寝る」とか「経る」ですね。先ほどやった「得る」もそのひとつです。
これらもルールはまったく一緒です。
「寝る」となっている動詞は、「る」をとりますから、「ね」。一字上をuに直しますから、「ぬ」になります。これが古語動詞ですね。
寝る→ぬ
経る→ふ
得る→う
となります。
四段活用動詞は二段活用も同時にもつ
次に現代語を考える際に気をつけてほしいのは、本当にそれは現代語として正しいか。
ということです。
たとえば、次の例を考えてみましょう。
応天門焼けぬ。
いかがでしょうか。ぱっと考えると「焼く」のような気がしますが、冷静に考えてみると、「ぬ」の意味はさておき、
「応天門が焼く」というのはおかしいですね。
これは「応天門焼ける」ではないかと気づきます。
「焼ける」→「る」をとる=「焼け」→uに直す。「焼く」
というわけで、終止形は同じ「焼く」ですが、現代語は「焼ける」、つまり、下二段活用であることがわかります。
次のものはいかがでしょうか?
世心つける女
何が入っていますか?
まず「つける」が疑わしいですよね。「世心」を「つける」女。
いかがですか?
でも、これはまだ活用を教えていませんが、
つけ・ず
つけ・て
つく。
つくる・こと
つくれ・ど
つけよ!
と活用するはずですから、形が合わないことになります。
もうひとつ、可能性を考えると、「世心」が「つく」可能性もあると思いませんか?
四段:焼く→現代:焼ける・古語:焼く
極端な言い方をすれば、すべての四段活用に二段動詞はあると考えることもできます。なぜなら、現代の動詞はすべて、「可能」の意味を持った動詞があるからですね。
泳ぐ→泳げる
書く→書ける
というような感じです。これがいつ成立したかは用例を調べていかなければいけませんし、平安時代で考えれば、どうなのか微妙だとは思うんですが、古文全体として考えれば、(江戸時代あたりになるとかなり現代語に近づいていきますから)存在は見つけられるはずです。
というわけで、今回はここまで。
次回は動詞の覚えるべきもの、そして、できれば活用まで触れたいと思います。